戯曲1 第5回(完結編)

前回の連載は以下のリンクよりお読みいただけます。

戯曲1 第4回

馬場         「ほんとだ」

赤羽         「たしかに」

大倉         「難しいんですよ漢字は」

赤羽         「北島が?」

大倉         「康介ですよ北島はわかりますよ片仮名のヒ二つでしょう?」

妊婦ら     「(信じらんない)」

 

海堂戻ってくる。

 

海堂         「ほんとだった!」

大倉         「あ館長、北ってどう書くんでしたっけ」

海堂         「ヒ二つに決まってんだろ」

赤羽         「やる気あんの?」

千倉         「元オリンピック選手の北島康介ですよね?」

大倉         「オリンピック?…は出てんじゃないすか?」

赤羽         「は?」

大倉         「出てるでしょーオリンピックくらい!ねえ、館長?」

海堂         「うん、オリンピックくらい出てるだろうな」

千倉         「まじか」

 

間。

 

馬場         「(静かに。徐々に自分でもわからないままテンションがエスカレートしていく)おかしいと思ってたんですよ。こんな小さな寂れた町の小さなボロっちいプールで気休めに適当にやってるマタニティースイミングなんかに突然北島康介が来るなんてないんだって!偽物なんですよ!」

海堂         「いや、本物ですよ?」

馬場         「偽物だね!」

海堂         「本物ですって!今から車で来ますから!」

馬場         「どうせ交通事故にでも遭って死にますよ偽物なんだから。私よく見るんですそういう夢。」

赤羽         「馬場ちゃん…?」

千倉         「どうかした?」

馬場           「いっつもそうじゃないですかお二人は!サイゼリヤで隣に座ったカップルがぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー揉めてた時だってずっとうるさいね静かにしてくれないかねって、そろそろ止めようか止めたほうがいいよねなんで店員さんも止めないんだろうねって言ってたのに結局最後は私が止めるの見てただけだったし、言いづらいことは私だけに押し付けて、自分たちは与り知らないーみたいにして、へらへらへらへらしないでくださいよ!お腹のなかに赤ちゃんというか別の人間が、自分とは別の命がいて、その命に対して本当に本当に最悪だけど責任みたいのが自分にしかほんとになくて、お二人はもう二回目だか三回目だか知らないけど、そういうことじゃないと思うんですよ、二回目だろうが三回目だろうが二十三万回目だろうがそうゆうことでのしかかってくるような責任って結局毎回毎回同じ重さじゃないいんですか!?また原発でもばーんって爆発したら、テロリストかなんかが本気出してもう手加減しねえっつってどーんてやってきたらどうしますか避難しますかお二人はしないでしょどうせ放射能なんてちょっとくらい浴びたほうがいいのよとか言って二十三万番目の子供を外で遊ばせたりして無責任以外の何でもないでしょ私なら沖縄でも北海道でも避難しますよ誰になんて言われても知らないんですそれが責➖でも沖縄の人も北海道の人ももう日本からなんて避難したほうがいいかもしんないもっともっとずっとずっと遠くまで、この世界でゆっくりまったり嬲り殺されてる全部の全部の人たち全員と一緒にどこまでもどこまでも逃げてやるんです私よくそういう夢見るんです私っておかしいんですか?私がおかしいんですか?私がどうかしてるんですか?私が言ってることと今本当に起こってるみたいなことって、どっちがほんとに有り得ないことですか?…ってかそういう風にこういう風に口に出してる時点でなんかもう既に無責任っていうか責任転嫁っていうかいやなんです絶対に絶対に誰にももちろん夫なんかにも絶対に絶対に絶対にわかんないだろうし、結局自分でしかわかんないだろうしってか私にもわかんないわよ!わかるわけないでしょ!なんなのよ!」

 

長い沈黙。

 

赤羽         「ごめん…さっきから、何言ってんの?」

千倉         「馬場ちゃん、私たち、一緒にサイゼリヤなんて行ったことないよ…?」

 

沈黙。

 

赤羽         「馬場ちゃん…?」

馬場         「ああ!」

千倉         「ねえ、馬場ちゃん!」

馬場         「ああもう!」

 

沈黙。

 

馬場         「夢で…私…(はっと何かに気づき、怯えたような目で海堂を見つめる)」

 

海堂のケータイが鳴る。

 

海堂         「(馬場に意識を残しつつ、出て)はいもしもしい。ええ、はい、ええ、ええ。え?…はい、ええ、はい…わかりました。はい、失礼します…(切って)キタジマさん乗せた車が事故起こして、病院向かったって。今日…来ないって」

 

馬場、なにかを、しかし確実に悟って絶叫。

どこかエクスタシーにも似た声。

 

大倉         「…なんも言えね」

 

蛍光灯が点滅している。

 

幕。

 

(完)

 

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また主宰の大塚健太郎さんから、「あはひ」主催のワークショップのお知らせが届いています!
↓↓↓

この度、第2回ワークショップの開催が決定しました。
テーマは「身体と意識」。身体の感覚と意識について、互いにどの程度関わり合っているのかを、一緒に考えていけたらと思っています。
オーディションではないので、どなたでもお気軽にご参加ください。

詳細、参加のご予約は上記リンク(「あはひ」のTwitterに飛びます)をご覧ください。

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大塚健太郎

大塚健太郎

98年生まれ。神奈川県出身。 早稲田大学文学部演劇映像 コース映像系所属。 劇団あはひ主宰。 劇団の公演にて作・演出を務めるほか、演出助手として宮沢章夫演出『新訳 ゴドーを待ちながら』リーディング公演(2017)、ジエン社『物の所有を学ぶ庭』(2018)に参加。
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98年生まれ。神奈川県出身。 早稲田大学文学部演劇映像 コース映像系所属。 劇団あはひ主宰。 劇団の公演にて作・演出を務めるほか、演出助手として宮沢章夫演出『新訳 ゴドーを待ちながら』リーディング公演(2017)、ジエン社『物の所有を学ぶ庭』(2018)に参加。

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