戯曲1 第1回
第1回
暗闇の中、荒波が打ち寄せるような音が響き渡る。
テレビのナレーション音声が聞こえる。
テレビのNA「(妊婦特集。母と胎児は思考をある部分共有しているという説がある&あとでキタジマコウスケがマタニティースイミングに訪れるので突撃取材する、という内容)」
明かりが入ると狭い部屋に椅子と長テーブルが無造作に置いてある。
何世代か前のテレビも置いてある。
「特別講師キタジマコウスケさん、ようこそ」と書かれた横断幕がある。
そしてその他諸々置いてあるものから察するに、ここはスイミングプールのスタッフルームのようである。
この部屋の中央を挟んで、プールの館長・海堂と、インストラクター・大倉が立ったまま対峙している。
時折、蛍光灯が点滅している。
海堂 「…は?」
大倉 「え?」
海堂 「ん?いや…は?」
大倉 「いや…は?」
海堂 「は?ってなんだよお前!たかがインストラクターの分際で!(首に掛けた職員証を強調して)ここの館長だぞ俺は!館長とインストラクター、どっちが偉いんだよ!」
大倉 「いやそりゃ館長っすけど!」
海堂 「(深く頷いて)そうだろうが」
大倉 「でも話くらいちゃんと聞いてくださいよ」
海堂 「偉い俺が偉くないお前の話を聞かなきゃならないのか!」
大倉 「話くらい聞いてくださいよ」
海堂 「うーむ…どうしよう」
大倉 「うーむって…あ、じゃあわかりました。うちのプールで、誰かが溺れてたとして、それ、助けるのは誰っすか?」
海堂 「そりゃあ、お前…(考え込む)うきw…!」
大倉 「インストラクターっすよね!?」
海堂 「そうだ」
大倉 「としたら?インストラクターはその人にとって命の恩人っすよね?その人が➖例えば今朝みたいにマタニティースイミングに来てる妊婦さんだったら、そのお腹の子供にとっても命の恩人。で、その時館長なにしてますか?」
海堂 「…(視界を泳がせ、テレビを見つけて)あさイチみてるな、確実に」
大倉 「誰かのことは?」
海堂 「助けてないな」
大倉 「むしろ」
海堂 「お役立ち情報に助けられようとしてるな」
大倉 「てことは…?」
海堂 「お前…」
大倉 「館長…」
二人、熱く抱き合う。
(続く……)
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大塚健太郎

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