ラブホテルは永遠に完成しない 第1回

今、日本に「ラブホテル」なんかないですよ。

 

“ラブホテル界のウォルトディズニー”と呼ばれる亜美伊新はこう語る。

理解に及ばない人がほとんどであろう。「言ったことあるわよ?」と。これは彼があえてそれに括弧をつけていることにも繋がる。

この世にあると思い込んでいたものがなかったと知った時、一体皆さんはどうしましょう。

信じていたものを見失う。ラブホテル。ラブ、愛。。。 なんでもない。

 

 

タイトルの通り、この連載は「ラブホテル」について執筆されていく。が、読むうえで踏まえて欲しいことが二つある。

 

まず一つ、これは「カップル向けのラブホテルおすすめサイト」などではないこと。そんなのはNAVERまとめでも見ておけばいい。

 

次に二つ目、これを読んで知った「ラブホテル」にはぜひ足を運んでほしい。そう、矛盾している。これには理由があるのだ。私は趣味というか好奇心で廃墟や「ラブホテル」へ高速を飛ばしてたまに赴くのだが、ホテルに着いたら決まって管理人と小一時間話す。

 

毎回出てくるのはくっちゃくちゃのおばあちゃん(たまにおじいちゃん)で、揃えて口にするのが「息子たちは若い頃に都心で就職して家を出て行ってしまい、このホテルは私で最後だ」と。最初の方こそ涙ぐましく聞いていたが、5回目くらいからは慣れてきて「うんうん、そうよね」くらいに摩耗してしまった。ここで言いたいのは、彼女らが死んだらもうあそこには行けず、もといあそこでの体験は得ることが出来ないのだ。なんとも危うくも、刹那的にギリギリ滑り込める余地がある時代が今なのである。

 

 

ここではそんな日本の文化遺産についてノスタルジックに、エロティックに、馬鹿馬鹿しくも真面目に書いていきたい。そしてやはり足を運んでほしい。回転しながらセックスしてほしい。

 

 

先述したようにそもそも「ラブホテル」というものは定義が曖昧で一般的なホテルとの線引きが難しい。目的は明確に一つなわけだが、性行為は普通のホテルでも出来てしまう。と同時に現代で言うラブホテルと何が違うのか、という疑問も浮かんでくる。まず大前提としてこの連載での「ラブホテル」とは昭和35年頃から平成初期にかけて誕生していった、装置・装飾・仕掛け等が施された“異空間ホテル”を指すこととする。

 

冒頭の亜美伊氏の発言に戻ろう。彼の発言の真意はつまり、今の日本のラブホテルとはいわゆる“ビジネスリゾートホテル”だということ。(以後ラブホと呼ぶ)たしかに受付の顔は見えないし、部屋は自動案内パネルで選ぶがそれ以外は何の障りのない宿泊施設である。その証拠にバンドの練習やラブホ女子会、外国人観光客の宿泊地としての利用の実態があることからも、ラブホは最大公約数的な宿泊施設であることが言えよう。

 

原因は、若者(特に女性)のウケが悪くなったこと、「時代遅れ」や「ダサい」という意見によって淘汰されてきたことは言うまでもないが、もう一つはやはり新風営法の改正であろう。簡単に言うと、極端な装飾や装置は宿泊施設には必要のないものとみなされてしまい「ラブホテル」は風俗店扱いとなってしまうのだ。結果それを避けるように淡白で、ラブホという一つの記号に収まる宿泊施設が立ち並んでしまう。

 

―一番大事なのはドキドキ感とワクワク感。

―ラブホテルというのは、行くと決まった時から前戯が始まっているもの。その興奮をさらに増幅させるものじゃないと。

 

ここまで読んできて「そのラブホテルってのがなんぼのもんなんだ」と思う人もきっと多いだろう。特に平成生まれの人はせいぜい都市伝説レベルに聞いた「回転ベッド」や「360度鏡張り」を想像しているに違いない。

 

とんでもない!

かつての「ラブホテル」はどこまでも壮大で馬鹿げたエンターテインメント施設だ。滑り台やブランコはもちろん、サウナ、プール、ウォータースライダー、コーヒーカップ。亜美伊氏がラブホテル界のウォルトと呼ばれるのも頷ける。建築物のパターンも和風建築や城、アラビアン宮殿やスペースシャトルと様々だが、そのジャンルフリーさを最も表すのはやはりベッドだ。目的行為の舞台なのだから気合も入りまくり。馬車、スポーツカー、海賊船、UFOなど、目にするとどうにも笑ってしまう。

そう、笑うしかないのだ。

 

それらのカオスでどこか気味の悪い非日常空間はもはや性行為をする場所にとどまらない。ものの短時間の性行為に対して目的を超越した異形なそれは無意味そうで意味を持つ、最も「ラブホテル」らしい“空間を楽しむ”という点に長けた醍醐味だ。

ラブホテルに造詣の深い写真家・ライターの都築響一氏はこう語る。

 

要求を超えた無用無意味の領域に踏み込んでいくのがアートだという基本原理を、 忘れてはならないのである。

 

 

しかし現代の我が国はこれを忘れてしまったのだ。決して失うべきではない遊び心を。思い返せばどんなカルチャーでも、メディアもファッションも、ほんの数十年前はもっと純粋に性を楽しんでいた印象がある。性教育の遅れ、いやに厳しい風営法、けしからんと騒ぐ人々。いつからこの国はこうなってしまったのだろう。

 

今回はこのあたりにしておこう。導入も兼ねたので話が少し逸れたが、「ラブホテルは建物として素晴らしいから観に行きましょう!」と言いたいわけでは決してない。とどのつまり寝るところだし、行為の最中は馬車に乗ってようが宇宙戦艦に乗ってようがまるで関係ない。しかし、だからこそ際立つのだ、「ラブホテル」の魅力は。性行為という勝りようのないものを中心とした時の“余白”にこそ美学が生まれる。

馬鹿馬鹿しさに光るものがある。

 

 

亜美伊氏は「ラブホテル」を「平和のシンボル」と表した。これは本当に行かないとわからないことだが、その空間では時間がゆっくり流れるような感覚がある。そうして21歳の私は「平和だなあ」と知りもしない時代を懐古するのだ。

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斉藤 俊輔

斉藤 俊輔

早稲田大学文化構想学部3年生。ジェンダーやエロティシズムからメディア、応用倫理学について勉強中。関心の対象にヒーロー、TVバラエティ、ラジオ、漫画、アダルト(グッズ、AV)など。2015年に第8回田辺聖子文学館ジュニア文学賞エッセイの部-高校部門にて最優秀賞を受賞。 早稲田大学金曜日研究会 幹事長
斉藤 俊輔

斉藤 俊輔

早稲田大学文化構想学部3年生。ジェンダーやエロティシズムからメディア、応用倫理学について勉強中。関心の対象にヒーロー、TVバラエティ、ラジオ、漫画、アダルト(グッズ、AV)など。2015年に第8回田辺聖子文学館ジュニア文学賞エッセイの部-高校部門にて最優秀賞を受賞。 早稲田大学金曜日研究会 幹事長

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