人の肉で焼き肉が食べたい 第1回

「人の肉を食べてみたい」

 

まず最初に、心から純粋な質問なのだが、「人の肉を食べてみたい」と思ったことはあるだろうか。私はある。あくまで単なる好奇心に過ぎず、私自身にカニバリズムが存在するわけでは決してないので誤解なきように。

 

いつからそう考えるようになったかは曖昧だが、なんとなくぼんやりとあった感覚をカニバリズムと結びつけて調べるようになったのは昨年観た映画『キングスマン ゴールデンサークル』以降である。スパイ映画である同作では、男をミンチ機に突っ込んで精肉にして作ったハンバーガーを食べることで組織への忠誠を誓うというシーンがある。観た人はわかるだろうがなかなかスプラッタなシーンで、皆「しばらくハンバーガーは食べられない」と言っていた。

しかし私は違った。そのバーガーがとてつもなく“食べ物として”美味しそうに見え、今まで苦手だったトマトが好物になりしばらくハンバーガーを好んで食べていた。毎回これを話すと自分を演出していると思われかねないのだが、事実なのだから話すしかない。

 

思えば特別に人の肉に対する嫌悪感がなかったのは宮沢賢治『注文の多い料理店』を読んだ時からかも知れない。怖いとかいう感想よりも何より「美味そう」と思った。牛乳のクリームを塗りこむ描写なんて実に美味しそうだったじゃないか。そう、キングスマンにしても得てして人肉であることを忘れてしまっているのだ。

↑『キングスマン ゴールデンサークル』部下の肉でハンバーガーを作る麻薬王ポピー

前置きが長くなってしまった、本題に入ろう。

カニバリズムについて語られるときは大抵やむを得ない状況ゆえの食肉かあるいは風習・文化、もしくは猟奇性に基づいて語られる。そもそもカニバリズムという思想が「社会的、または文化的な行為」と「純然たる嗜好(嗜食)」の二つに大きく分けられるのだが、この時味に基づいて語られることが少ない。これが悲しい。

 

女性を見て「食べるならどこかな」と考えたことはないだろうか?

 

―ないか。

 

しかし人間のどこが美味しいかは気になっても当然だと思う、なぜなら絶対に食べることが出来ないから。仕方なく体験談を追うのだが、てんで意見がバラバラで当てにならない。ある人は3~5歳の男児のふくらはぎが旨いという。またある人は20歳前後の女性の腕が旨いとも。目の周りと言う人や、男性器が美味しいというのもあった。「結局どこなんだよ!!」と声を荒げたくなる。

 

私は、われわれ人間が人間の肉を食べる表現を見る以上、例外を除いてそれはものすごく美味そうでなければならないと思う。この場合の例外とはその表現の猟奇性を持たせたい時の“味付けした”食肉である。そうではなくてもっと純粋な好奇心を煽るような、食べたことのないものを見る赤ん坊のような、食欲に結びついてしまうものであるべきだと私は考える。なぜなら、忘れがちだがカニバリズムは食事である、実際はもっと淡々としているというか粛々と行われているはずだ。

 

猟奇的カニバリストも映画のそれのように気色悪く、汚く食べないだろう。人の肉を食べる行為自体が特異なだけで彼らにとってそれが食事だ。民族の風習にしたって宗教や伝統に従って行われるケースが多く、より一層厳粛で真面目な行為だ。飢餓状態の食人肉なんかは、極限の精神で開かれる究極の食事だ。小学校の先生もよく言っていた「命のありがたみを知る」この上ない機会じゃないか。

 

つまりカニバリズムにまとわりつく一定を超えたグロテスクイメージはエンターテインメントとして作り上げられた虚構であると考えられる。皆さんにとって一番身近なカニバリズム表現は『東京喰種』であろうか。作中では「喰種」という人肉を食べ、人間の食事は不味くて食べられない種族がいる。同作で振舞われる精肉された人肉肉塊も、彼らは実に美味しそうに食べる。逆に普通のサンドイッチを不味いと吐き出すシーン、あれも「どんな味がするのだろう」と興味が湧く。これも立派な食欲ではないだろうか。

 

カフカの『変身』の冒頭でワクワクしたことを思い出す。味わったことのない味覚を想像することにおいて、テレビで異国の料理を食べてみたいと思うことと人の肉を食ってみたいと考えることの一体何が違うというのか。この連載では人肉嗜食をグルメの角度で、人肉を食事の対象として見ることを中心に書いていければいいと思っている。もちろん過去の事件や風習、アントロポファジーに即して述べることもあるだろう。しかしあくまで極めてフラットに、人を食べる行為への偏見を取り払って考察していきたい。

 

 

これだと私がカニバリストのようだが、決して違うので安心していただきたい。手始めにこれを読み終えた貴方は、自分の体を触ってどこが一番美味しいか考えてみて欲しい。次回までの宿題としよう。

 

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斉藤 俊輔

斉藤 俊輔

早稲田大学文化構想学部3年生。ジェンダーやエロティシズムからメディア、応用倫理学について勉強中。関心の対象にヒーロー、TVバラエティ、ラジオ、漫画、アダルト(グッズ、AV)など。2015年に第8回田辺聖子文学館ジュニア文学賞エッセイの部-高校部門にて最優秀賞を受賞。 早稲田大学金曜日研究会 幹事長
斉藤 俊輔

斉藤 俊輔

早稲田大学文化構想学部3年生。ジェンダーやエロティシズムからメディア、応用倫理学について勉強中。関心の対象にヒーロー、TVバラエティ、ラジオ、漫画、アダルト(グッズ、AV)など。2015年に第8回田辺聖子文学館ジュニア文学賞エッセイの部-高校部門にて最優秀賞を受賞。 早稲田大学金曜日研究会 幹事長

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