僕達は東京スカイツリーだ~塔から考える2010年代論~ 第2回

2010年時間の旅

というわけで東京スカイツリーに関する連載、第2回目である。前回はスカイツリーについて考えるために歌川国芳の奇妙な浮世絵を召還したのだった。それは昔から存在していたにも関わらず、でも突然2010年代になって急にこの絵とスカイツリーが語られるようになった。これはなぜだろう。そのように問いかけて前回は終わったのだった(初回の記事は次のリンクをタップ)。

僕達は東京スカイツリーだ~塔から考える2010年代論~ 第1回

さてそうして浮世絵とスカイツリーに考えてみる。この2つが結び付けられて考えられるのは確かにオカルト的だし、まあいくら奇人であった国芳だってスカイツリーを予見したとは考えにくいだろう。でも一方でこのようにどこからともなくスカイツリーを過去との結びつき、つまり時間との結びつきと合わせて考えることはあながちスカイツリーが塔として目指している方向と変わらないということを指摘しておこう。

というのもスカイツリーはその建物としてのスローガンとしてこんな言葉を挙げているのだ。

 

時空を超えたランドスケープの創造

 

驚くなかれ、時空を超えたランドスケープ(=景観)を創造しようというのがスカイツリーの理念だったのである。

 

スカイツリーの建造においてはあらゆるところに「過去」や「歴史性」とのつながりが意識されている(この点、デートなどで知識を垂れ流すとよいのでは?)例えば、ライトアップの名称は日本の伝統的な色である「雅(みやび)」、江戸人を表す言葉としてよく用いられた「粋(いき)」、それから祭りや戦のときに使われた勇ましい旗である「幟(のぼり)」という名称が付けられている。

「雅」のライトアップ

 

 

「粋」のライトアップ

 

 

「幟」のライトアップ

 

 

そのとてつもない高さにも粋な心遣いが為されている(まさに「粋」だ)。その高さは634メートル、つまり「ムサシ=武蔵(関東圏の旧国名)」と読み替えられるのである。こうした表面的なものだけでなく、建築の工程においても「時空を超えたランドスケープ」を作るために五重塔の建築技法に乗っ取って全体の構造が決められたりするなど、「過去」の建築意匠が採用された。

 

(豆知識:過去の建築意匠といえば、塔のシルエットが微妙に反ったり、むくんだりしているのが分かるだろうか?そう見えたとしても決して目の錯覚ではない。これは「反り」と「むくり」と呼ばれる日本刀の技法が塔の形に用いられていて、その絶妙な反り具合、むくり具合によってスカイツリーは見る方向によって全く異なる形に見えるというマジックな建築物なのである。)

 

スカイツリーの全景。歪んで見えるのは「反り」と「むくり」の技術のためだ。

 

日本刀。いい感じで反っている。

 

このようにスカイツリーの建設においては多くの点で「過去」と「現在」のつながりが意識されていたのであるが、でもそれはまさにあの国芳の絵がスカイツリーと結びつけられることによって真の意味で成しえられたといえるのではないだろうか?国芳の浮世絵を思いだそう。スカイツリーに見立てられる高い塔とその周りにある江戸の街。この2つがオカルト的な言説のうちに結び付けられ、皮肉なことに(?)スカイツリーが目指した理念をかなえてしまったのである。

そして視野をスカイツリーのみならず、2010年代全体にまで広げてみると、このような「時間」への意識が広く共有されていることがわかる。次に挙げるのは2010年代にオープンした建造物のスローガンをいくつかまとめたものだ。すると……

 

「未来の東京は、ここからはじまる」(虎ノ門ヒルズ、2014年)

「歴史と未来の交差点」(京橋エドグラン、2016年)

「未来への出発点」(新宿ミライナタワー、2016年)

「歴史がもたらす品格と。未来へ向かう広い視野と。」

(東京ガーデンテラス紀尾井町、2016年)

「銀座の街並が持つ歴史と美しさを惹き立てる建築」(銀座シックス、2017年)

 

ここで興奮が走る。2010年代の建物は「時間性」がテーマになっているものが多い…!

しかし焦ってはならない。もしかすると建物というのはそもそも長く使われるのが前提なのだから、「未来」とか「過去」だとか「歴史」だとかいうような「時間性」に意識を向けて作られたスローガンは多いかもしれない。そう思って2000年代の建物につけられたスローガンを見てみると……

 

「すべての人が笑顔でつながる都市空間」(晴海トリトン、2000年)

「日曜日なのに、東京駅に降りていた。」(丸の内ビルディング、2002年)

「六本木人、生まれる」(六本木ヒルズ、2003年)

 

大変なことが起こってしまった。

2010年代の建造物の多くが「過去」や「未来」といった「イマ」ではない時間をキャッチコピーの中で語っているのに対して、2000年代のキャッチコピーは現在のライフスタイルや「現在」という時間に向いている。このように考えてみるとどうやら2010年代を取り巻く建物のキャッチコピーにおいて「時間」は重要な要素になっているようである。その点においては浮世絵とスカイツリーがたまたま2010年代に入って結び付けられたその背後には2010年代を貫通するこうした「時間」性への着目があるようなのである。

しかし2010年代をこのように「時間」性との関連において語ることはまだ早計であるように思える。なぜかといえば、2000年代において、建築のキャッチコピーにおいては「現在」が重視されていたかもしれないが、一方で2000年代におけるある文化を切り取ってみるとその時代には映画『3丁目の夕日』に代表されるような「昭和ノスタルジアブーム」が存在していたからである。「ノスタルジー」は言うまでもなく「過去」への遡行であって、今はもうない「過去」をいつくしむ気持ちである。

 

これが「昭和ノスタルジア」だ。

 

では2000年代における「ノスタルジー」ブームと2010年代の「時間」性への着目はどのように異なっているのだろうか、もしくは同様の事態を指し示しているのか?次回は少しだけスカイツリーを離れてこの2つの文化を比較してみることにしよう。

 

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