『[an imitation]blood orange』Mr.Children (2013)

ポップスに徹する、ということ。あるいは逃避への欲望

 

日本を代表するロックバンド、Mr.Children。

 

「ロック」という形容詞を今使ったが、「ミスチルってロックなの?」という疑問を持つ人は日本に数多いるだろう。

いわゆる「J-POP」の代名詞として語られることの多いMr.Childrenだが、甲斐バンドやU2の影響下にあるこのバンドがただの「ポップ」であったことは一度たりともなかった。

それは「Tomorrow Never Knows」の大ヒット後に発表された「everybody goes –秩序のない現代にドロップキック-」からも感じられるし、桜井のただ優しいだけでない、尖った部分を持ち合わせた歌声からも感じ取ることができるだろう。

 

しかし、この不思議なタイトルのアルバムは違う。

誤解を生む言い方かもしれないが、ただ「ポップ」なアルバムなのだ。

壮大なロックバラード「hypnosis」も、管楽器のきらびやかな音色から始まる「Marshmallow Days」も、ただサビで「君に会いたい」と繰り返されるラブソング「常套句」も。11曲全てが優しく響く。

 

 

20周年イヤーに発売されたアルバムだから?タイアップ曲が7曲も収録されているから?バラードが多いから?

 

どれも正当な理由なように思えるが、フロントマンの桜井和寿はもっと深い意図をこの「ポップ」なアルバムに込めていた。

それは震災後初めての作品として、ポップミュージックの持つ「癒し」を追求しているからである。

 

震災後、「メロディが浮かばなくなった」と語っていた桜井にとって、「他者の癒しとなるポップミュージック」を志向することは音楽制作における最大の動機になったことが想像に難くない。

 

このアルバムの7曲目に収録された「イミテーションの木」では、ビルの中にある模造品の木と音楽を重ねながら桜井はこのように歌う。

 

無機質なそのビルの中

イミテーションの木は茂る

何かの役割を持ってそこにある

イミテーションの

イミテーションの

張りぼての命でも人を癒せるなら

本物じゃなくても君を癒せるなら

 

「張りぼての命でも」、「本物じゃくても」と繰り返しながらも他者に対する「癒し」を希求しているのだ。

 

そう考えると、いわゆる「現実」からの一時的な逃避を歌った歌がこのアルバムには多い。

 

もう現実から見捨てられたっていいや

「hypnosis」

 

札幌いやハワイ?エベレスト? 世界中をひとしきり空想

「Happy Song」

 

現実やリアルなものたちの残酷さからの一時的な逃避をするために必要な「張りぼて」や「イミテーション」。

Mr.Children自体がそうなることを志向したからこその「[an imitation] blood orange」なのである。

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吉田 ボブ
サザンオールスターズを子守唄にして育ち、マイケル・ジャクソンによって音楽に目覚める。 音楽、野球、映画、アイドルを横断歴に論じる。TAP the POPにて隔週で連載 年2回発行されるフリーペーパー「WASEDA LINKS」編集長
吉田 ボブ

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サザンオールスターズを子守唄にして育ち、マイケル・ジャクソンによって音楽に目覚める。 音楽、野球、映画、アイドルを横断歴に論じる。TAP the POPにて隔週で連載 年2回発行されるフリーペーパー「WASEDA LINKS」編集長

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