「愛護」と「殺処分」のはざまで~早稲田大学地域猫の会 ロングインタビュー

早稲田大学には大小・公認非公認合わせて600を超えるサークルが存在するそうであるが、その中に「早稲田大学地域猫の会」(以後、「わせねこ」)というサークルがある。このサークルは名前の通り猫に関する活動を行うサークルであって、早稲田大学の本部キャンパスを中心に「わせねこ」と書かれたプラカードを持ちながら猫に餌をあげている姿を私も見たことがある。聞くところによると毎日ほとんど休まずに決まった時間で早稲田周辺に生息している猫たちの世話をしているのだという。しかしそれはただ単に餌をあげているではないらしく、またその猫たちも単なる「野良猫」ではなく「地域猫」という特殊な分類に入る猫なのだという。

ではこのサークルは一体どのようなサークルなのだろうか?単純なようで奥深い「地域猫」の世界について「わせねこ」の皆さんにインタビューしてみた。

 

早稲田大学周辺に生息する地域猫の「茶々」

 

「地域猫」について

 

私たちのサークルで世話している猫を「地域猫」と言いますが、これは避妊去勢手術を行いながらも屋外で生活している猫のことで、野良猫は避妊去勢されていません。地域猫は保健所に連れていかれないために耳にカットが入っているので見分けがつくのです。

「地域猫」という考え方は1997年に環境庁から提言されました。当時、日本においては動物愛護法と保健所の取り組みに乗り越えがたい矛盾が生じていました。一方では「愛護」を謳っているにもかかわらず野良猫・野良犬は殺処分の対象となってしまっているわけですからね。一方、欧米では猫シェルター――飼い主が見つかるまで保護したりする場所――や地域猫活動が既に存在していたそうで、そうした諸外国の例も参照しながら環境庁が提言し、その2年後、1999年にわせねこは誕生しました。大学キャンパス内に実際に猫がいたこと、そして当時子猫がごみ袋に捨てられているという惨い事件があり、そのインパクトも大きかったので、かなり早い段階から早稲田大学における地域猫活動は始まりました。

 

「わせねこ」の活動について

 

わせねこの活動を考える上で「TNR」(トラップ、ニューター、リリース)という大事な概念があります。これは元々そこにいた野良猫を捕まえて(トラップ)、避妊去勢手術をして(ニューター)、元々いた場所に戻し(リリース)、その後は継続的にその子たちの管理をしていくという考え方です。糞尿の処理をしたり体調のチェックをしながら早稲田周辺にいる地域猫の管理を僕たちが行っています。病気や騒音、それらに起因する近所トラブルなど、野良猫が殺処分されるのにも相応の理由があります。それも踏まえて、「TNR」の結果として野良猫の数を「自然減」――殺処分ではない――させるというのが僕たちの最終的な目的です。

活動の向いている方向も「猫に対する奉仕」ではなく早稲田キャンパスという「地域に対する奉仕」なのでかなり特殊な立ち位置にある団体だとは思います。地域猫活動の地域は地域住民の「地域」なんですよね。だから地域住民と協力しなければならないので、そのためにちゃんと広報を行ったり地域猫を地域住民に可愛がってもらえるように活動しないといけない。

地域住民との連携も大切です。わせねこでは、特に大学職員の方々が猫たちをとても可愛がってくださっています。僕たちが知らない情報もたくさん持っていて、心強い相談相手です。1日に猫たちと接している時間は、僕たちよりも遥かに長かったりする。毎日本当にお世話になっているので、感謝してもしきれません。

 

地域猫活動の広がり

 

地域猫活動をサークルとして行うことは全国に広がりつつあります。大学サークル以外にも、例えば「西早稲田地域猫の会」というのも昔あって、案外様々な所で草の根運動的にやっている。更に活動のあり方もかなり多種多様なスタンスがあります。昔はわせねこも行っていましたが、里親探しをしている団体もあります。団体ごとのスタンスの違いについては、2017年に発足した大学ねこサークルの連絡会、「大学ねこ連盟U-Cats」でもそのすり合わせや明確化が検討されています。何となくかわいい名称ですが(笑)、それが発足して先日は第1回目の勉強会が開かれました。そこでも大学ごとの猫に対するスタンスの違いというのを痛感しましたね。どこまでが野良猫で、どこからが地域猫なのかといった定義の違いや、地域猫活動として最低限行わなければならないことはなにかといった活動の違いなどがその例です。

かなり杜撰な話ではありますが、今までそもそも活動のスタンスの類型化というのはハッキリとはされてこなかったんです。なので現在は「自分たちがどのようなスタンスで地域猫活動を行っているのか」ということを類型化する動きもあります。

猫の数の多さのために避妊去勢の管理が出来ず、結果的に野良猫なのに餌を挙げてしまうという問題も起こっています。一匹の猫を去勢させるためには単純に5万円ほどのお金がかかります。自治体などから補助が出る場合もありますが、現実問題すべての猫に去勢手術をさせるのが難しい場合もあり、それをどうしていくかも今後の問題です。

 

同じく早稲田に現われる地域猫の「プーチン」。北門に現われるから「プーチン」らしい。

 

地域猫活動の問題点

 

既にお分かりのようにわせねこにおける地域猫活動は非常に難しいスタンスにあるので、この活動への批判や疑問もかなりある。自己批判としては、我々の管理エリアが猫のテリトリーと必ずしもリンクしていないので完全に管理することが難しいということがある。他人の家の中に入っている場合もあるのでその辺りは大変難しいのですが。

広報のやり方も非常に難しい。地域猫活動を広報すると猫版の赤ちゃんポストだと思われてしまうリスクがある。どういうことかというと、地域ぐるみで世話してくれる団体があるということで飼いきれなくなった猫を捨てに来てしまうかもしれない。それは広報のデメリットですが、他方でこの猫たちは野良猫ではないということを広く地域の人に訴えかけることも必要不可欠。広報は現段階で大変重要な問題で、わせねこの名前自体は有名でも何をやっているサークルなのかという部分で知らない人も多い。

「わせねこ」というちょっと可愛い略称があることで、単純にうちが猫をかわいがるだけのサークルなんだと思われてしまう節もある(笑)。

でもこれもジレンマで、ボランティアをあまりにも前面に押し出して新歓活動をするとメンバーの多様性が損なわれるかもしれない。猫好きというと様々な人が来てくれるから、結果的に色々なスタンスやバックグラウンドの人が加入してくれる。地域猫活動は地域や状況に応じて柔軟にトライアンドエラーで発展させていくことが必要で、メンバーの多様性はそういう意味でも大切です。

 

「わせねこ」のバランス感覚について

この辺りのバランス感覚はとても大事で、最初は猫が好きだということで入ってくる人が多い。最初のうちは猫が可愛いなあと思って入ってみたら一面ではそういうボランティアをやっていたということで驚く人もいる。ただし最初は猫好きを集めて餌やりに付いてきてもらうだけですね。今の一年生もまだ付いてきている段階です。それで夏休みに合宿があってそこで猫についての勉強会があるんだけど、これが合宿のメインになる。餌やり中に小出しにしていた地域猫に関する情報――地域猫とは何だろうか、とか我々の目的だとか今まで皆さんにお話ししてきたようなこと――を合宿で一気に勉強してもらう。それでこの勉強会はなんと試験付きなんですよ(笑)。

春の試験では「わせねこは動物愛護団体ではないんだ」という話を僕が話して、その後すぐの試験で「わせねこが動物愛護団体でないということはどういうことか論述しなさい」ということを出題した(笑)。

しかも早稲田大学の試験用紙のフォーマットをまねして、裏まで書けるような答案用紙になっている(笑)。

実際に合宿時の試験で使われた解答用紙。本格的だ……!

 

それは余談としても、今言った「わせねこは動物愛護団体ではない」という命題はとても重要なテーゼです。先ほどの新歓時期におけるバランス感覚の話にも通じるとは思いますが、うちは基本的に偏ってはいけないサークルなんですよね。動物愛護の立場に依ってもいけないし、路上の猫を廃絶するだのなんだのという立場になってもいけない。その折衷案、第3の道として野良猫の「自然減」を目指す地域猫活動を行っています。最終的には猫を避妊去勢して増やさないようにするというある意味での条件付きで、猫が嫌いな人や保健所の人からも情けをもらいつつ、現在この地域で生きている猫たちを生かしながら「自然減」させようという活動なんですよね。だから動物愛護でもなければ、殺処分するというわけでもない。人によって主義・主張は様々あるでしょうし、地域ごとの文脈ももちろん考慮しなければならないのですが、「愛護」や「殺処分」という二項対立には与しない概念があるのだということを様々な人に知って欲しいです。

どちらにせよかなり現実路線での動物に関する活動なのかなとは思っています。

誤解を恐れずに言うならば、わせねこが動物に関する団体として最も特徴的なのは、ちゃんとした避妊去勢が出来ないのであればむしろ殺処分すべきだ、と考えていることです。もちろんその辺りのスタンスは団体によって大きく別れる。わせねこの活動範囲はどうしても都市圏、つまり猫が少ない場所だからこういうことが言えるというのはもちろんあります。しかし殺処分するのにも理由があるわけで、野良猫への無秩序な餌付けは決して推奨できない。もちろん殺処分という解決策自体は悲しいことだから、出来るならば「自然減」を目指したい。

現実問題として全ての猫を救うということは現行制度上は無理だし、その中で殺すということを避けるのにもっとも良い道はこの道だと思うのでこの活動を行っています。もちろん改良の余地はありますし、今まで杜撰にやってきたこともあるのでそれは直していきたいです。

 

「わせねこ」のこれから

 

私たちの代で行おうとしていることの一つは、猫の観察ノート――毎日餌やりの時に猫の様子をチェックして記録してるノートですが――を全てExcelに打ち直して、それによって猫のテリトリーの被り方や総数の増減を分析しようという試みです。早稲田大学の教育学部生物学専修に生態学を専門にしている先生がいらっしゃって、その方と協力しながらそれを一つの論文にしようとしています。

この分析による結果はこれまでわせねこが行ってきたことの活動の検証になると思っています。長い間やってきた活動の実績を検証できないと意味が無いし、今まで私たちがましだと思って行っていたことがマイナスの側面を生んでいる可能性もあるのでそれを検証したい。実はわせねこでの地域猫活動はもう衰退期に入っています。TNRが功を奏してか、当初20匹ほどいた猫たちはもう4匹まで減っていますからね。だからこそ今までの活動の精査や、他の団体に活動の留意点とかノウハウを伝えたりということが重要になってくると思っています。わせねこが成功例だったか否かを検証したいのです。

この分析は実は恐ろしくもあって、今までの活動が失敗していたということが判明してしまうかもしれない。例えば減り方の違いです。「自然減」ではなくて、地域猫活動の結果として猫同士のテリトリーが重複してしまい、喧嘩をして減っていたということが分かる可能性もあります。

とはいえこういう活動は私たちの代である程度片を付けて、来年は新歓活動で猫カフェとコラボとかしたいです(笑)。猫が0匹になるより前にサークル員が0人になってしまっては困るので、新歓はやはり重要なイベントですね。できるだけ多くの、かつバラエティに富んだ人々が集まると嬉しい。ここから先は次の代の采配だけれども。

新歓でも広報でも、地域の人々、特に今までボランティアなり動物保護なりに関わってこなかった層を巻き込んでいくというのはやはり大切なんです。僕たちの場合は活動地域が早稲田ですので、早稲田の地域住民や早大生、あるいは職員の方々になりますね。早稲田にいる地域猫を可愛がってくれる人も多いのですが、餌を勝手にあげたら太ってしまうし病気になる可能性もある。可愛がってくれる人には可愛がり方を知ってほしいし、そうでない方には彼らが野良猫ではないということを知って欲しい。だからこそこれからも地域猫に関する発信はしていきたいなと思っています。

 

【予告】

この度、「La shoire」では今回インタビューを行った「早稲田大学地域猫の会」の皆さんとも協力しながら今回でのインタビューの話も交えながら新しい連載を始めます。

その名も、「Cat the New Chapter」。猫と人との新しいかかわり方を模索する連載です。執筆者は都度変わりますが、このインタビューで話されていた「愛護」でも「殺処分」でもない新しい動物とのかかわり方を様々な角度から掘っていきます!乞うご期待ください。

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早稲田大学地域猫の会

早稲田大学地域猫の会

早稲田大学地域猫の会(わせねこ)は、「人と猫がともに生きる環境&社会」を作っていくことを目的とした、早稲田大学公認のボランティアサークルです。 早稲田大学早稲田キャンパス内で暮らす猫を「地域猫」として管理・世話しています。1999年から地域猫活動(大学サークルとしては日本初!!)を始め、現在約70人のサークル員が活動を行っています。
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早稲田大学地域猫の会(わせねこ)は、「人と猫がともに生きる環境&社会」を作っていくことを目的とした、早稲田大学公認のボランティアサークルです。 早稲田大学早稲田キャンパス内で暮らす猫を「地域猫」として管理・世話しています。1999年から地域猫活動(大学サークルとしては日本初!!)を始め、現在約70人のサークル員が活動を行っています。

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